書庫の設計について、前回は書架形式に着目してお伝えしましたが、今回は書庫環境に関してご紹介します。

書庫環境は、収蔵する資料の性格や利用頻度、施設の運営事情など、対象とする書庫の特性を考慮して個別に設定されるものですが、ここでは一般的な留意点を挙げました。

1)温湿度の設定

恒温恒湿が理想的ですが、ランニングコストが大変に高くつきますので、一般的には、許容できる温湿度域を設定し、温湿度変化が年間を通してその範囲内に収まることを目標とします。

紙資料の保存にとって、湿度管理は特に重要です。湿度が高いとカビが発生し、低いと資料の破壊につながります。

その間の湿度域 - 上限60%、下限40%程度と言われています - に収めることを目標とします。

温度は、資料保存の観点からは低い方が有利とされていますが、資料活用の観点からも考慮される必要があります。

つまり、書庫室温が人の作業空間として適切な範囲であることや、書庫内外の移動に伴って資料が急激な温度変化に曝されないよう、書庫と一般居室との温度差を大きくしないこと、なども考慮する必要があります。

結果として、人間にとって比較的穏やかな温度域が一般的に採用されます。

2)温湿度変化に対する配慮

温湿度の変化をできるだけ抑える、または、変化をできるだけ穏やかに進行させるよう、配慮する必要があります。

プラン上、書庫を建物外周面から離して配置できれば、外気変化による影響を抑制することができます。

書庫壁を、躯体と内装壁による二重壁とした上、二重壁内と天井内も空気循環を行い、書庫室内環境の安定化を図る、などの工夫も行われます。

3)温湿度むらに対する配慮(通気性の確保)

空気が滞留することによる局所的な温湿度むらができないよう、配慮する必要があります。

書架レイアウトの際、書架を壁から離すことは、点検容易性、清掃性の観点からも有効です。

集密書架を採用する場合は、書架同士が密着するので、書架内の通気性の確保に注意を払う必要があります。

書架の一部に有孔板を使うなどの他、電動タイプの中には、不使用時は書架の間隔を均等に空け、通気性を確保できる機能を有するものもあります。

また、自動書架を採用する場合は、高さ方向の温湿度むらの緩和について検討する必要があります。

4)光

紫外線や熱による影響を避ける必要があるため、基本的には外光導入を避け、人工照明とします。
今のところ、LED照明が適当と考えられます。

5)有害生物被害防止

発生した有害生物への対策としては燻蒸処理が一般的ですが、近年では、複数の対策を組み合わせて生物被害を抑えるIPM(Integrated Pest Management 総合的有害生物管理)という考え方も提唱されています。

IPMを効果的に導入することにより、有毒性のある燻蒸処理への依存度を低減できる可能性があります。

これまで挙げた、安定した温湿度管理がより容易となる建築プランや設備の工夫、清掃しやすい書庫内レイアウトなどは、IPMへの取組に資すると考えられます。

以上、書庫環境に関して紹介させていただきました。
実務等において参考になる部分がございましたら、ぜひご活用ください。