今から30年以上前。建て方の前に、よく大工の親方さん達が行っていたものがあります。間取図を基に作成した、番付表というものです。

その番付表は柱や梁、束などの1件の家のすべての構造部材が網羅されています。今では基礎伏せ図~小屋伏せ図と何枚も構造図を作成しますが、たった1枚のベニヤ板に書き込んだものです。

大工の親方が、番付表を基に構造材を加工して、組み立てるのを手きざみと言います。

一方、現在では在来木造の現場のほとんどがコンピューターで作成した構造図を基に、加工マシーンで構造材を加工するものをプレッカットといいます。

それでは、具体的にはどんな違いがあるのかを説明させていただきます。

手きざみによる加工

住宅の基本モジュールは3尺で909ミリ(又は910ミリ)を基本として構成されます。
この、3尺の方眼状に横軸を漢数字で一から二、三と数字を並べます。

縦軸は下から「ろはにほへと」、と順番に書きます。その為一番の基軸がイの一番になります。

そんな、基準で作る番付表を大工の親方は3尺四方ほどのべニア板に、差し金と墨壺、墨サシを使って一軒の家の構造図として作成します。

番付表が完成しましたら、親方は材木屋さんと構造材料の仕入れの打合せを行います。通し柱や管柱の本数。梁や束の本数などです。

その時、材質などの打合せを行いますが、大工の親方は、材木屋さんまで出向き柱を1本、1本選んで、ここの柱はこれと選択していました。

また、梁などは角材よりも丸太を使用していました。自然の曲がりがある、丸太を小屋梁によく使用していました。

親方が一通りの材料を選びますと、材木屋さんは、大工さんの下小屋までその木材を運んでくれました。その材料を先ず電気カンナをかけます。するときれいな木目が現れその材料に番付表に基づく文字を書き込みます。

すべて親方の手作業によって材木を加工し、番付表に基づく文字を書き込んでいきます。

この時、手きざみと言われるいわれは、柱と土台や柱と梁の接続部分に加工されるほぞや、梁や土台同士をつなぐ、継手をノミやのノコギリを使い手作業で加工します。

手作業と言いましても、電動式の加工機を使用して大工さんが加工します。
また、和室用の柱を加工する時は、手カンナで薄くきれいなカンナ屑を出しながら、つるつるの柱を仕上げていきます。手作業の職人技がそこにあります。

手きざみの特徴としましては、
①構造図は番付表を基に大工の親方の頭の中にあります。
②主な構造材料は、親方が選びます。
③下小屋で、大工さんが構造材を加工します。
④加工は全部手作業です。

プレカットによる加工

プレカットの発展は、在来木造のコンピューター化の発展と言っても良いと思います。プレカットが出始めの頃(今から30年ほど前)は、まだ建築そのものが手作業の時代で、プレカットはまであまり浸透していませんでした。

図面が手書きからCADで書くように変化したように、在来木造の構造材の加工も手きざみからプレカットに変化しました。

手きざみの頃は、木工事においてはきざみと言う項目が存在しましたが、プレカットの浸透によって、無くなりました。

手きざみでは、材料選びから関わっていた大工さんが、プレカットでは大工さんは建て方の際に、初めてその現場に関わるように変わってしまいました。

プレカットは、CADの発展によって構造図がすぐに作成できるようになり、コンピューターによって動く加工マシーンで一棟分の構造材をあっという間に工場で加工します。

手きざみで最低でも2週間近くかけていたものが、あっという間に一棟分が出来上がります。そして、棟梁が書いていた番付表の文字も機械が印刷します。

プレカットの特徴としましては、
①CADに連動した構造図によって加工が進みます
②材料は、プレカット工場まかせです。(材質や無垢材、集成材の選択はできます。)
③工場であっという間に加工されます。
④加工はすべてマシーンです。

手きざみからプレカットへの変化

プレカットと手きざみの違いは、手書きの図面とCAD図面との違いのような違いです。

プレカットの構造は、決められたルールのもとに、均一の精巧な構造材で機械的なものです。

そして手きざみの場合は、自然に曲がった梁を、親方の魔術のように上手く材料を使用する技が見られ、構造材そのものが芸術作品のように見えました。

しかし、その熟練した技術を伝承するよりは、プレカットの方が早く、正確な構造材料を得られるため、今の大工さんは構造材をきざむ事無く、ただ建て方だけに専念すればいいように変化してきました。

その結果、きざむ必要が無い大工さんは、ノミやカンナの道具も必要が無くなり、いつの間にか、大工さんの道具箱の中から消えていきました。

そして、手きざみの時は大工さんの技としていろんな継手が見られましたが、今は、均一な継手に金物補強が主流になり、大工さんの技量に関係なく均一な構造躯体が得られるようになりました。