前回は、文化財の建築を見る際に必要な価値の見分け方の中でも、「用材」に関してお伝えいたしました。今回は、「仕事の良さ」に関して詳しくお伝えしていきます。価値をきちんと理解することで、その文化財をより良い状態に保存・活用することが可能になります。

1) 「仕事のよさ」が素晴らしい

「用材」が素晴らしいことに追加して、「仕事のよさ」を理解できると、さらに文化財の価値を色々な方へお伝えすることができます。

(1) 社寺建築の彫刻

江戸時代の後期から、明治時代、大正時代にかけて、全国でも、日光東照宮のある栃木県、諏訪大社のある長野県(立川流)、道後温泉がある愛媛県のに彫刻がたくさんみられます。

現在、これらの彫刻類は彫れる人がいないため、大変貴重です。社寺建築の中でも、神社とお寺では彫刻が少し違っていますが、神社の要素とお寺の要素が混じったものも多数存在しています。

(2) 数寄屋造の座敷

明治時代、大正時代には、数寄屋造(書院造にお茶室のデザイン要素を加えたもの)の座敷にご注目ください。

特に、床の間の周りの木材の加工が素晴らしいです。例えば、床の間の長押をよく観察すると、床柱にかかっているところの納まりが「雛留(ひなどめ)」になっています。

「雛留」とは、長押と床柱との取合部の納め方で、床柱の正面の見付幅の1/6程度残した位置で長押を止めて、その小口を同材にて留に納める方法です。

腕の良い職人さんは、この「雛留」の角がピシッとあっています。「雛留」部分を解体修理する場合は、構造をよく理解していないと外せないため、床柱と長押はそのままの状態に保存しておく方がよい場合が多いです。

また、柱をよく見ると「面皮柱」になっていることがありますが、この面皮部分の四隅に注目して下さい。

「面皮柱」とは、柱の角は丸のまま残し、4面に木目を出しており、主として茶室の柱として使われ、木目を綺麗に見ることができる味のある柱です。

面皮の部分は、木の成長具合によって微妙に違いますので、その面皮部分が「長押」や「鴨居」とピタッと納まるという仕事のよさは賛称に値します。

以上のように、文化財における「仕事のよさ」の価値の見分け方には大きく分けて「社寺建築」と「数寄屋造」の2種類に分類できます。

これらを踏まえてより良い状態で文化財が修理・活用されますよう、実務にお役立いただければと思います。