遵法性を確保しながら、または、遵法性を確保できる範囲で、改修内容を定めてゆくことは、改修設計における重要なポイントの一つです。
今回は、建築基準法上の排煙設備に関して、改修設計上の留意点をご紹介します。
1)大規模の模様替や大規模の修繕(以下「大規模模様替等」)における排煙設備の遡及の整理
建築基準法第86条の7 には、既存不適格建築物に対し「増築等」を行う場合の、現行法令適用(いわゆる遡及)の緩和に関する規定が記されています。「増築等」には大規模模様替等も含まれます。
同条第2項には、法第20条と法第35条の遡及緩和に関する規定が記されています。
排煙設備の基準を包含する法第35条の遡及については「独立部分適用」とすることが謳われています。
排煙設備に関する「独立部分」とは、令第137条の14第三号に定められており、準耐火構造の壁・床および防火設備で区画された部分と簡単に要約できます。
結論的には、大規模模様替等の際、排煙設備に関して現行法規が遡及されますが、改修工事の手が入らない「独立部分」がもしあれば、その部分には遡及されない、と読むことができます。
2)改修設計上の留意点
遡及等の理由により、排煙設備の基準を満足させつつ改修を行う場合について、しばしば問題となるいくつかのポイントをご紹介します。(1)天井の撤去範囲
天井が不燃材料または準不燃材料でつくられていない建物の場合、防煙区画を成立させるためには、防煙壁を上階床下まで到達させることが必要です。従って工事の際、少なくとも防煙壁を整備する部分は、施工に必要な一定の幅で、既存天井を撤去する必要があります。
既存天井を部分的に残すより広く撤去したほうが、設計の自由度が高く、工事もしやすい(特に設備工事)との判断で、しばしば全面撤去が選択されます。
(2)天井高が低い場合
古い建物等では、現在の水準と比べて階高が低めであるため天井高が十分取れず、排煙設備の整備に支障をきたす場合があります。例えば、天井高2.3mの廊下-居室間仕切壁に、高さ1.9mの出入口がとりついている場合、出入口上部で50cmの寸法が確保できないため、防煙区画が成立しません。
そのような場合、一般的に、出入口扉を不燃材料でつくり、かつ常閉式とすることで、出入口上部を30cmまで緩和できます(建築物の防火避難規定の解説2016 25-4)。
(3)排煙窓までの距離
大きな建物では、各部から排煙口までの距離を、基準の30m以下にすることが意外に困難な場合があります。特に、排煙が必要な中廊下は注意すべきです。
以上、排煙設備に関して、改修設計上の留意点を紹介させていただきました。
なお、実務においては、具体的な設計案に基づいて関係機関に確認することが必要です。
参考になる部分がございましたら、ぜひご活用ください。