確認申請が必要な改修工事の場合、法令の遡及適用は、特に注意すべき事柄です。
遡及の程度が、計画内容そのものを左右する可能性が大いにあります。
今回は、建築基準法の遡及適用に関する、基本的な事柄についてご紹介します。

1)既存不適格建築物とは

建築時には適法に建てられたものの、その後、法改正等により現行法の規定に適合しない部分が生じた建築物、と大まかに要約できます。

また、建築基準法(以下「法」)第3条第2項では、そのような不適合部分については、現行規定を適用しない、と定められています。

つまり、既存不適格建築物は、建築基準法の現行規定に適合しない部分を有しますが、法不適合建築物(いわゆる違反建築)ではない、ということになります。

建築基準法は頻繁に改正されますので、既存建物の多くが、程度の差はありますが、既存不適格建築物である可能性があります。

2)遡及とは

既存不適格建築物の、上述の不適合部分について、現行規定が適用されることをいいます。

通常、増築・大規模修繕・大規模模様替等の、確認申請を要する工事の際、遡及の問題が顕在化します。
確認申請では、法への適合性が求められるからです。

例えば、遡及によって、当初実施したいと考えていた修繕内容を超えて工事内容が膨らみ、予算、工期、工事範囲が増大する、ということが考えられます。

3)遡及の緩和

しかし、実は、確認申請に際し、現行の建築基準法に含まれる規定の全てが、遡及適用されるわけではありません。

法第86条の7 第1~3項において、増築・大規模修繕・大規模模様替等の際、遡及適用を緩和する条項や、緩和する範囲が定められています。

逆に、同条に記載のない条項の規定は、原則として遡及適用されます。

4)改修設計における遡及のチェック

(1)既存不適格条項のチェック

改修設計の際、現行規定に適合していない部分を把握する必要があります。

図面や現地調査による他、法第12条の定期報告の義務のある建築物であれば、過去の定期報告書が参考になります。

また、自治体や確認審査機関が、既存不適格条項のチェックリストを提供している場合があるので、活用できます。

なお、確認申請の際は、上調査に基づき既存不適格調書を作成します。

(2)遡及内容のチェック

あわせて、既存不適格条項のうち、目下の改修計画において、現行規定が遡及適用される可能性のあるものを把握し、必要に応じて設計に反映させます。

法第86条の7等に基づき、遡及適用される条項、遡及緩和される条項を、逐条確認することが基本です。

以上、遡及適用に関する、基本的な事柄に関して紹介させていただきました。
実務において参考になる部分がございましたら、ぜひご活用ください。